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プロジェクトストーリー

INTERVIEW

5G通信を担う、新時代のデバイスを

「サーミスタ内蔵水晶振動子76.8MHz」開発プロジェクト

あらゆる電子機器に欠かせない水晶デバイス。NDKはその製品を通じて、より豊かな社会の実現に貢献している。とりわけ顕著なのが、通信分野への貢献だ。NDKでは、5G向けのスマートフォンに搭載される、新時代のデバイス「サーミスタ内蔵水晶振動子76.8MHz」を他社に先駆けて開発し、世界的なチップセットメーカーのファースト認定を獲得した。新たな価値の創出に向けて、プロジェクトメンバーたちは、どのような困難に立ち向かったのか。また、どのようなブレークスルーが生まれたのか。同製品の開発ストーリーに焦点を当てる。

CHAPTER.01

絶対に、
ファーストを獲る

「5G向けのスマートフォンに搭載する、高性能な水晶デバイスを開発してほしい」

NDKに世界的なチップセットメーカーからの打診があったのは、2016年のことだった。移動体通信の 5G移行に伴い、これまでの倍以上となる76.8MHzもの高周波化を実現する。水晶振動子の印加電力=ドライブレベルを引き上げ、かつ高安定な温度特性を維持する。寄せられたのは、きわめて高度で、難易度の高い要求だった。

一般的に、大手チップセットメーカーでは、自社のIC製品だけでなく、そのパフォーマンスを最大化させる周辺部品を評価・認定し、取引先(大手チップセットメーカーの顧客でセットメーカー)にパッケージで推奨する。つまり、このチップセットメーカーの要求を満たし、「ファースト認定」を獲得することができれば、同社(大手チップセットメーカー)の製品(IC)が搭載されるすべての機器(大手チップセットメーカーの顧客であるセットメーカーが製造販売する製品)に、NDKの水晶デバイスが推奨され、価格や品質面を含めて市場をコントロールすることが可能となるのだ。本プロジェクトの営業担当は、当時を振り返ってこう語る。

「かつては、モバイル市場に必要不可欠な品質を提供し、ワールドワイドでトップシェアを維持していました。しかし、近年はモバイル通信向け市場でファースト認定を獲得した実績はなく、他社を追随する立場にならざるを得ませんでした。このままでは、いけない......。それが、営業部門・技術部門が共通して抱いていた危機感でした。日ごろの業務に追われてしまうと、難易度の高いものを後回しにしてしまいがち。しかし、今回の認定は非常に重要だという危機感を持っていたので、そうならないように『絶対に、ファースト認定を獲ろう』。周囲を鼓舞しながら、全社に熱を広げようと考えていました」

営業企画部 チップセット営業課
営業担当として、顧客との折衝をすると共に、社内メンバーのまとめ役を担務。
CHAPTER.02

技術と行動力で、
最高のパートナーに

苦しい戦いを強いられることが予想された開発レースだが、NDKは終始、優位な立場でプロジェクトを進めることになる。技術担当者は、その要因を次のように話す。

「顧客である世界的チップセットメーカーと二人三脚の関係を築けたこと。これが大きかったですね。何度も関係部門と議論した結果を顧客の技術担当者にぶつける......。営業担当者だけでなく、私たち技術担当者も重要な局面では、技術のTOPも引き連れてアメリカ顧客を訪問し、関係性を築きました。高度な要求に応え続けたこと。刻々と変化する仕様にしっかりと対応し続けたこと。オープンに、ポジティブに向き合う姿勢が、実りある提案につながっていったのだと思います」

もっとも信頼できるパートナーであり続けた。それは、単なるスタンスの話だけでなく、NDKの技術力を証明する事実でもある。時には、自社の持ちうる技術を思い切って開示することで、「こんなにも、卓越した技術を持っているのか!」と驚かれたこともあったそうだ。

「製品にどれほど高度な技術が活かされているか。要求を満たすまでにどれほどの苦労があるのか。腹を割った議論の中で、エンジニアとしての敬意を示していただけた。この事実があったから、私たち技術担当者は、誇りを持って仕事に取り組むことができました」

第一技術部 第二課・設計技術
水晶振動子の設計から試作品評価、量産立ち上げまで多岐にわたるパートを担当。
CHAPTER.03

量産開始まで半年。
必ず、やり遂げて見せる

一方、顧客が求める高度な特性を満たすための設計は、きわめて難度の高いミッションであった。そこに大きく貢献したのが、NDKのシミュレーション技術だ。極小の精密な製品を作る上で勘・コツに頼ったプロセスを踏んでいては、開発のスピードや精度は不安定なものとなる。NDKでは早期から、この技術に投資を行い、開発の効率化・スピードアップを図っていたのだ。シミュレーション担当者は、自らの仕事についてこう語る。

「試作や計算を重ね、適切な条件を見定める。そして、シミュレーションの応用事例を積み重ねる。そうすることで精緻なシミュレーションを行える手順を確立し、水晶振動子の設計にマッチした方法を見出していきました。特筆すべきポイントは、研究部門の担当者が可能な限り、設計者に寄り添い、結果を一緒に見て、解釈の仕方を伝達したこと。現実のモノづくりと理論の間には多かれ少なかれ常にギャップがあり、そこを上手く埋められなければシミュレーションの効果は半減しますからね」

順風満帆に見えた開発プロジェクトだが、最大の壁は実際に製造していく工程で訪れた。製造上の破損・トラブルが多発したのだ。さらには、高ドライブレベル化に伴い、温度変化による急峻な周波数変動が起きて質のばらつきが生じてしまうことも、量産直前までの課題となっていた。設計担当者は当時のことをこう振り返る。

「水晶ブランクの加工はトラブルの連続でした。高周波数化を実現するためには、水晶は自然と薄くなり、エッチング加工量も増える。すると、ブランクとウエハの結合部分がきわめて薄くなり、折り取り不良が多発してしまうわけです。試作段階では、顧客が求める数を生産するために、多くの人々が手作業で製造を行い、何とか間に合わせたこともありました。そうした状況を打破したのは、従来の製造プロセスを覆す決断を下したこと。量産開始まで、あと半年というタイミングでの決断でした」

想像もできないほどのプレッシャーの中で、選んだのは果敢なチャレンジの道。その背景には、「必ず成し遂げて見せる」という覚悟があった。

研究開発センター
シミュレーションツールの活用をはじめ、製造を考慮した設計改善に貢献。
振動子開発部第二課
フォトウエハの設計とサンプルウエハの製造フォロー・量産立ち上げを担当。
CHAPTER.04

部門を越えた、
チームの力

髪の毛ほど薄く、視認もできないほど小さな製品を品質のばらつきなく、安定的につくりだす。そのミッションは決して容易いものではない。実際に製造プロセスを大きく変えた後も、ひとつ課題をクリアしては、次の課題が生まれるといった状況が続いたのだという。そうした中で、プロセス技術担当者は、あるひとつの方針を打ち出すことになる。

「目指したのは、製品を『鈍感にしてあげるプロセス』を構築すること。形状に僅かばかりの差異が生じても、品質・特性はぶらさないプロセスを構築しようという狙いでした。途中工程を丁寧に観察し、何が起きているのかを調べ、現在使用可能な設備の中で最善の対策を提案する......。一つひとつの事象を論理的に解決することで、理想的な『鈍感さ』を目指しました。同製品の量産体制をいち早く確立できたのは、一人ひとりのメンバーがしっかりと価値を発揮できたからだと思います。設計も優れたものでしたし、プロセス技術部門と製造部門のメンバーも一緒になって、積極的にアイデアを出して作り上げていきました」

そして、2020年6月。NDKは顧客の期待に応え、量産体制を整備。「サーミスタ内蔵水晶振動子76.8MHz」のファースト認定獲得により、急速に拡大する5G 向けスマートフォン市場に先手を打ち、事業を大きく発展させることができたのだ。

営業・設計・生産技術・製造とそれぞれの部門が真摯に、誠実に、仕事に打ち込み、プロフェッショナリティーを発揮する......。本プロジェクトの成功は、誰か一人の力で勝ち得たものではない。このプロジェクトに関わったメンバーは「部門を越えた、チームの力を感じた」と口を揃える。NDKのデバイスは、米粒よりも小さなもの。だが、そこには、多くの人の仕事と想いが詰め込まれている。そして、その努力と挑戦の結晶であるデバイスは、広く、世の中の発展に貢献していくことになる。

本プロジェクトは、ビジネス上の成功はもちろん、関わるすべての人に「誇り」と「自信」を与えてくれる契機となった。そして、物語はここで終わるわけではない。さらなる生産性の実現。より高精度・高品質な製品の創造。その先に待つ6Gの世界への貢献......。NDKはさらなる飛躍に向けて、挑戦を続けていく。

部品技術部 WP(ウエハプロセス)生産技術課
製造プロセスの改善を担当。安定的な歩留まりを実現。